言葉が出にくい方とのコミュニケーション|介護現場で大切にしたい声かけと「待つ」姿勢

コラム

介護の仕事をしていると、病気や身体状況などによって、自分の気持ちを言葉で伝えることが難しい方と接することがあります。

「何を伝えようとしているのだろう」
「こちらから質問したほうがいいのだろうか」
「待っていることが負担にならないだろうか」

介護する側も、コミュニケーションの取り方に悩むことがあるでしょう。

私自身、介護現場で言葉がうまく出ない方と関わるなかで、「話すことだけがコミュニケーションではない」と感じる経験がありました。

今回は実際の介護経験をもとに、言葉が出にくい方と接するときに大切にしたいことについて考えてみます。

言葉が出にくい方とのコミュニケーションで大切なこと

言葉が出にくいからといって、伝えたい気持ちまでなくなったわけではありません。

そのため介護する側には、「伝えられない」と決めつけるのではなく、本人がどのような方法で意思を伝えようとしているのかを見る姿勢が必要です。

言葉だけではなく、

・表情
・視線
・口の動き
・手の動き
・うなずき
・指差し

なども、その方にとって大切なコミュニケーション手段になることがあります。

介護者側が「言葉を聞き取る」ことだけに集中してしまうと、こうした小さなサインを見落としてしまう可能性があります。

急かさず「待つ」こともコミュニケーション

訪問介護の仕事で出会ったある方は、病気の影響によって言葉がうまく出ませんでした。

何か話そうとしてくれるのですが、途中で止まってしまったり、声にならなかったりすることがあります。

それでも、その方は諦めません。

眉を動かしたり、口を一生懸命動かしたり、手を少し持ち上げたりしながら、自分の思いを伝えようとしてくれます。

そんなとき、僕が意識していたのが「待つこと」でした。

「大丈夫ですよ。ゆっくりでいいですよ」

そう声をかけ、できるだけ本人が伝え終わるまで待つようにします。

沈黙が続くと、介護者側が先回りして「○○ですか?」と答えを出したくなることもあります。

もちろん、選択肢を示したほうが伝えやすい場面もあるでしょう。

しかし、毎回こちらが先に答えてしまえば、本人が自分の意思を伝える機会を奪ってしまう可能性もあります。

「待つ」という行動も、相手の意思を尊重するための大切な関わり方のひとつだと感じています。

表情や仕草から伝わることもある

会話は、言葉だけで成立するものではありません。

介護現場では、利用者さんの表情や身体の動きから気持ちを感じ取る場面があります。

たとえば、

「うれしい」
「嫌だ」
「もう少し」
「ありがとう」

といった気持ちが、表情や仕草に表れることがあります。

もちろん、介護者側の思い込みだけで本人の意思を決めつけることは避けなければなりません。

だからこそ、普段からその方の表情や反応をよく観察し、必要に応じて確認しながらコミュニケーションを取ることが大切です。

介護現場で意識したい声かけ

言葉が出にくい方と接するときは、声かけの仕方も重要です。

一度に多くの質問をするのではなく、できるだけ短く分かりやすく伝えます。

また、返事がすぐに返ってこなくても、何度も質問を重ねるのではなく、少し時間を置くことも意識しています。

「ゆっくりで大丈夫ですよ」

「はい・いいえでも大丈夫ですよ」

「こちらですか?」

その方の状態に合わせながら、答えやすい方法を探していくことが必要です。

大切なのは、介護者が会話を成立させることではなく、本人が自分の意思を伝えられる環境をつくることだと思います。

実体験|言葉の代わりに届いた「またね」

その方のケアを終え、私が帰る準備をすると、毎回してくれることがあります。

車椅子から精一杯腕を伸ばし、何度も手を振ってくれるのです。

声は出なくても、口の動きを見ると分かります。

「またね」

私にとって、その「またね」は単なる挨拶ではありませんでした。

次も来てくれると信じてくれていること。

今日一緒に過ごした時間が、その方の中に残っていること。

そして、言葉がうまく出なくても、人と人との関係はつくれるということ。

手を振る小さな動きから、たくさんの気持ちが伝わってきました。

言葉が出にくい方とのコミュニケーションで避けたいこと

介護する側が気をつけたいのは、「話せない=分からない」と決めつけないことです。

本人の前で本人を置き去りにして話を進めたり、返答を待たずに介護者側だけで判断したりすると、本人の意思を確認する機会が少なくなってしまいます。

また、言葉が出るまでに時間がかかる場合でも、焦らせるような態度には注意が必要です。

介護現場では限られた時間のなかで支援する必要があります。

それでも、できる範囲で本人が伝えられる時間をつくることは、尊厳を守ることにもつながると私は考えています。

まとめ|言葉だけがコミュニケーションではない

人は、うまく話せなくなったからといって、感じなくなるわけではありません。

伝えたい思いがなくなるわけでもありません。

表情、視線、手の動き、そして何気ない仕草。

言葉以外にも、気持ちを伝える方法はたくさんあります。

介護する側に必要なのは、「何を話しているのか」だけではなく、「何を伝えようとしているのか」に目を向けることではないでしょうか。

今日も、その方は手を振ってくれました。

その小さな動きは、私にとって何よりも大きな「ありがとう」に感じられます。

次に会うときも、また同じように手を振り合えるように。

これからも、一人ひとりの伝え方を大切にしながら、その「またね」を受け取っていきたいと思います。